歯周病が「口の中の生活習慣病」と言われるのは、生活習慣病としてよく知られている糖尿病や高血圧と同じように、現在の西洋医学では治らないと考えられているからです。だからといって過度に心配する必要はありません。生活習慣を変えることにより、完治しなくても病状をコントロールすることができます。
糖尿病と歯周病とは密接な関係があり、歯周病をコントロールすることで、糖尿病が改善するという報告も多くあります。また、肺炎、骨粗しょう症、腎炎、関節炎、発熱などとの関連も疑われています。
歯周病の症状は、歯周病菌に対する免疫系が過剰反応することで悪化します。免疫反応は通常は身体を守るために働きます。しかし、細菌の刺激により、歯周組織のマクロファージやリンパ球が産生する酵素類やサイトカイン類などが、歯肉に蓄積します。酵素類はコラーゲン繊維などを切断・溶解する作用を持っています。サイトカイン類は、炎症性サイトカインと呼ばれるIL_1、IL_6、IL_8、TNFなどのタンパク質です。局所的に産生された炎症性サイトカインは、歯周組織に対して悪影響を及ぼすのみならず、血液を介して全身疾患にも影響をもたらします。最近の研究では、糖尿病以外にも、心臓血管病、低体重児出産・早産・アルツハイマー病などが歯周病に関連するとされています。
歯周病のコントロールのポイントは、歯の周りに付着する歯垢・バイオフィルム(細菌類のかたまり)を取り除く治療を継続的に実施することです。残念ながら日本では、継続治療に対する認識が欧米に比べて低いのが実状です。
当院では昭和60(1985)年からこの方法を導入しており、30年近く通院されている患者様もいらっしゃいます。 また、初期治療はスウェーデンのイエテボリ大学のプロトコールに準じて実施し、必要な場合は歯周外科手術(ポケット掻爬・フラップオペ・小帯切除や前庭拡張など)も積極的に行ないます。GTR法、エムドゲイン(エナメルマトリックス蛋白)やリグロス(FGF)を使用した再生治療も併せて実施しています。
一部の再生療法を除いて、治療や手術はすべて健康保険の範囲内で行います。
▼第一段階/最初に歯周組織検査とスケーリング(主に歯肉縁上歯石除去)を行います。
▼第二段階/再検査とSRP(主に歯肉縁下歯石除去)を実施します。
▼第三段階/第二段階で、改善が認められない部位に関しては、歯周外科(ポケット掻爬やフラップ手術、再生療法)を行います。
以上の治療により、症状が安定すればSPT(サポーティブペリオドンタルセラピー:歯周安定期治療)に移行します。
当院は厚生労働省より「かかりつけ歯科医機能強化型診療所」の施設認定を受けておりますので、歯周治療が安定しメインテナンスに入った患者様はSPTⅡを施行します。
●歯周病は糖尿病の合併症
糖尿病が歯周病を誘発したり、その進行を早めたりすることは以前から分かっていました。この機序について、最近では糖尿病患者の身体内で多くなっている糖化蛋白質が免疫細胞を刺激してサイトカインを産生したり、血管壁を狭窄したりするためにインスリン抵抗性が生じると説明されています。つまり、産生したサイトカインが歯周病の炎症症状を強めるのです。こうしたことから、歯周病は腎症(腎機能障害)、網膜症(視力低下)、神経症、大血管障害、小血管障害の慢性合併症に次ぐ、第6番目の合併症とも言われるようになりました。また近年、歯周病の治療をするとインスリン抵抗性が改善し、血糖コントロールも改善するという研究結果が数多く報告されています。
●口の中の健康を維持するには?
人間は誰でも成人すれば上下左右で32本の歯があります。最近は親知らずが生えてこない事が多く、その場合は計28本になります。その歯がう蝕(虫歯)や歯周病、外傷などさまざな要因で喪失していきます。
口の中の健康が維持されていないと、食事が美味しく感じられないだけでなく、摂食に支障をきたします。そうならないためには、自分の歯をできるだけ残すことが大切。つまり安易に歯を抜くべきではありません。
やむを得ない理由で抜歯した場合は、失った歯の代わりになるものを入れる必要があります。それがブリッジ(固定性義歯)や義歯やインプラントです。当院はインプラント治療が専門ですが、決して安易には勧めません。自分の歯に勝るものはないからです。